東京地方裁判所 平成6年(ヨ)21056号 決定 1994年5月25日
債権者
藤竿豊博
右代理人弁護士
高野毅
債務者
株式会社レックス
右代表者清算人
赤岩晃
右代理人弁護士
池原毅和
同
佐藤勉
主文
一 本件申立を却下する。
二 申立費用は債権者の負担とする。
理由
第一申立
債権者が債務者に対し、雇用契約上の権利を有する地位にあることを仮に定める。
第二当裁判所の判断
一 当事者間に争いのない事実、疎明資料(書証略)及び審尋の結果によれば、次の事実が疎明される。
1 債権者(昭和三四年九月一七日生)は、昭和六二年一月、電器・通信・音響機器部品・自動車部品等の製造、販売等を業とする債務者会社と雇用契約を締結した。
2 債務者会社は、資本金五〇〇万円の株式会社であり、関連会社としてレックス技研株式会社(以下、レックス技研という)を擁し、肩書地に本社を、埼玉県新座市に工場を有する。但し、新座工場の土地建物は、関連会社であるトラスト興産株式会社の所有である。従業員数は、債務者会社とレックス技研両社で、平成六年二月二一日当時、一二名であった。
3 債務者会社は、申立外クラリオン株式会社を主たる取引先としており、同社との取引量は、全体の約六割を占め、カー・オーディオ製品の試作を受注していた。
しかし、平成四年三月頃より、同社からの受注量は半分以下に減少し、債務者会社では、月の半分は仕事がないような状態となり、売上高は半減した。債務者会社では、平成六年一月六日にはレックス技研を吸収合併する、同月三一日には、正社員一名・パート二名の人員整理をするなどの施策を講じようとしたが、試作品の設計から完成まで一貫して製作する業態であるため、従業員数を大幅に削減する再建策を講ずることは困難であり、やむなく事業全体を廃止することとなり、平成六年二月二八日解散決議をし、同年三月七日その旨の登記を了し、清算人には、代表取締役社長であった赤岩晃が就任した。
4 債務者会社の赤岩社長は、平成六年二月一五日、従業員全員に対し、個別に「債務者会社を解散する。給料は、同年三月二〇日までの分を保障する」と告げ、同日をもって解雇する予告の意思表示をした。
次いで、同年二月一八日には、従業員を集め、会社解散に至った経緯、給与・退職金の支払について説明をした。
そして、債務者会社は、債権者に対し、同月二八日付けで、「使用期間―昭和六二年一月より平成六年二月二〇日まで、地位―製造二課課長、賃金―三四万五〇〇〇円」と記載した使用証明書(書証略)を発行した。
5 債務者会社には、退職金支給規定は存在しないが、全従業員に対し、中小企業退職金共済法に基づく退職金(いわゆる中退金)のほか、平成六年三月三一日、賃金月額の約二か月分に相当する金員を退職金として支払った。
そして、債務者会社は、同年三月二〇日をもって、前記クラリオンほかの取引先との取引をいずれも終了し、同年同月二九日までに機械類をほとんど全て売却処分した。また、平成六年三月二一日をもって、従業員の社会保険被保険者資格の喪失手続をとった。
債務者会社では、従業員の転職先の斡旋をしたり、独立自営しようとする者に対しては、会社の機械を譲渡するなどした。
6 債務者は、債権者に対しても、中退金として約九万円の支払をしたほか、平成六年三月三一日、賃金月額の約二か月分に相当する金六九万円の支払をした。また、債務者は、債権者に機械を譲渡する交渉の機会を持ったが、債権者は、後にこれを断った。
二 右疎明された事実によれば、債務者会社は、売上高の激減に基づく経営状況の悪化のため、解散を余儀なくされるに至り、右解散に伴う事業廃止により、従業員全員を解雇しなければならなくなったものであり、右解散が偽装であるとの事実もこれを窺うことはできないから、右解雇は、やむを得ないものといわざるを得ない。
そして、本件全疎明資料によるも、本件解雇が合理性・相当性を欠き、解雇権の濫用であることを疎明するに足りないというべきであるから、本件解雇は有効なものである。
三 以上によれば、本件申立は、被保全権利について疎明がないことに帰するから、失当として却下することとし、主文のとおり決定する。
(裁判官 吉田肇)